家族が不安そうな顔をして、テレビを観ている。子どもだけ、窓の外を眺めている。
不安そうな子どもの顔。
その子どもの祈る仕草。
そして、コマの右上にお日様が半分だけ見える風景。高知新聞夕刊に連載中の4コマ漫画、村岡マサヒロ作「きんこん土佐日記」。冒頭で紹介したのは、2011年3月13日のウェブ版に掲載された同作品の4コマである。セリフはない。
2004年に連載を開始したこの漫画は、じいさんとばあさん、息子夫婦、そしてその子どもが主な登場人物で、セリフはすべて土佐弁。ほのぼのとした家族のエピソードと、賢い孫の辛口な発言が好評で、現在も連載がつづいている。NHK大河ドラマ『龍馬伝』最終回をディスった漫画として、2ちゃんねるを中心に話題となったのは記憶にあたらしい。
ユーモラスな4コマ漫画の連載中に、突然、3月11日の東日本大震災がおとずれる。村岡さんと編集を担当する高知新聞記者の松井久美さんは、震災直後の連載テーマをどうするか悩んだ。
「言葉を失うような未曾有の災害に直面し、心がふるえました。そこへ、村岡さんから『ギャグ漫画を掲載していていいのか』と電話があり、『自分たちに何ができるのか』と考えました。そして、まずは被災地に心を寄せることがたいせつだと思った。その結果、あのような4コマが生まれたのです」(松井さん談)
筆者の知るかぎり、震災直後、新聞漫画でここまで敏感に反応したものは、ほかにはなかった。新聞漫画は時事ニュースとともに生きているようでいて、そうでないものも多い。なかでも、大震災を漫画にすることはあまりにハードルが高く、あえて取りあげない作者もいただろう。だが、「きんこん土佐日記」は違った。しめっぽくならず、パニックにならず、ヒステリックにもならないかたちで、被災地への思いをていねいに表現している。
日本ABC協会の調べによると、2010年8月の同新聞の発行部数は約20万部。だが、とある地方紙の4コマ漫画が、大震災とこれほど真剣に向き合っていたという事実は、もっと多くの読者に伝わってもよいと筆者は思う。
今回、紹介した3月13日付の「きんこん土佐日記」は、高知新聞ウェブ版の「東日本大震災情報」というページにいまも掲載されている。興味のある読者は、ぜひとも同ページをたずね、地方紙の心意気を感じてほしい。
すげぇ…。
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nakano: gotouyuuki-text: ある4コマ漫画の3.11 -...
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