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"原子力発電所が爆発する「赤富士」の夢は、特に酷評されたエピソードの一つだ。放射性物質が着色されてるという言い訳がましい設定を井川比佐志がしゃべる場面には、当時のオレも鼻白んだ記憶がある。原発は危険ですよ..."

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原子力発電所が爆発する「赤富士」の夢は、特に酷評されたエピソードの一つだ。放射性物質が着色されてるという言い訳がましい設定を井川比佐志がしゃべる場面には、当時のオレも鼻白んだ記憶がある。原発は危険ですよと言いたいがために原発が爆発する話をつくるという方法論は、免許更新で見せられる交通事故怖いですよビデオと大差ない。なにしろ「夢」の話であるから、ちょっと子どもっぽくも思える。批評家の大半は、幼児退行した老人の妄想で醜悪だと評した。当時「夢」を褒めたのは淀川長治さんぐらいのものだった。批評家は核の恐怖を間接的に描いたイマヘイの「黒い雨」は褒めても、どうにも気がきいてない「赤富士」は安心してこき下ろす。やつらはそういうルールのゲームでメシを食っている。

しかし今になってみると、オレは「赤富士」のド直球ぶりに感動を覚える。「赤富士」がいい作品だとはいまだに思えないが、黒澤明はこんなもの凄いストレートをよく投げたもんだと思う。ここには核への恐怖を象徴するゴジラのような依代さえ登場しない。そのまんま、原発が爆発する。日本一の不幸顔である根岸季衣が、原発を推進した連中への呪詛を吐く。寺尾聡はジャンパーをふりまわし、放射能を払おうとする(放射能ってああやって払えるもんなのか?)。「夢」だから科学的でもない。

2011年の我々は、あの頃老人の妄想とバカにした「夢」の、「赤富士」の世界を生きている。そりゃもちろん、あれほど極端に絶望的な状況ではない。しかし今、「赤富士」を笑える日本人がどれだけいるだろうか。金儲けのことばかり考えてる連中がいちばん偉そうにしていたあのクソみたいな時代、黒澤明は原発がおっかないという映画を作り、ありとあらゆる罵詈雑言を浴びた。このことは、憶えておいたほうがいいような気がするのです。



- 2011-04-02 - 挑戦者ストロング (via yasunao)

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