Q1 新しくコンサートホールを作るとしたら?
「日本には民間のホールが少ないので、もっと増えるといいなとは思いますね。ほとんどが官営なんですよ。要するに役所みたいなもので、時間にうるさいんですよね。東京の民間ホールはぜんぶクラシック専用だから、僕らみたいな音楽ではやらせてもらえないし、できないんです。東京にもひとつ、僕らがやれるような民間のホールがあったらいいんですけど」
Q2 無人島に持っていきたい1枚は?
「1枚はムリです。せめて棚一個分、ダンボール一箱分はないと」
Q3 うどんとそば、どっちが好きですか?
「もちろん、そばです。落語にもそういう話があるんだけど、祝い事のときに“そばで一杯”はあっても、うどんって具合が悪いときに食べるものでしょ、東京の場合。大阪の人にこれを言うと怒られるけどね」
Q4 子供のころの夏休みの思い出は?
「いちばん大きい思い出は富士の山頂登山ですね。2回登ったことがあるんですよ。おじが山中湖に連れていってくれて、同い年のいとこといっしょに5合目から登って。いいもんですよ、ご来光って。もう1度登りたいと思ってるんだけど、体力がどうかな…」
Q5 女性になれるとしたら、どんなファッションをしたい?
「コスプレ。変身願望ということなら非日常的なファッションのほうがいいでしょ」
Q6 注目している若手ミュージシャンはいますか?
「今回のアルバム(『Ray Of Hope』)にもフリューゲルホルンで参加してもらってるんだけど、市原ひかりというトランペットの女の子がいいですね。いままでのオヤジのジャズの概念とはまったく違っていて、フレーズが繊細だし、作曲・編曲の能力も高い。新しいアルバム(『UNITY』)も素晴らしいですよ。
ロックも聴いてはいるんだけど、若手の飛び抜けたバンドはまだ出てない気がしますね。アナーキー、ブルーハーツ、イースタンユース、ミッシェル・ガン・エレファント、ザ・バースディ、モーサム・トーンベンダーのラインが好きなんだけど、若手でそこまでのバンドはまだ知らない。勉強不足なのかもしれないけど」
Q7 好きな言葉は?
「年代によって変わるんですよ。昔は「為せば成る」だったんだけど。まぁ、それにしとこうかな」
Q8 嫌いな言葉は?
「アーティスト。自分が言われるのも嫌だし、口にするのも嫌い。いま日本で使われてたり、メディアが言ってるアーティストは、本来の意味じゃないですからね」
Q9 プロポーズの言葉は?
「僕はシャイなので、そんな言葉は言いませんでした。お互いに何となく「結婚しようか…」くらいで。歌の文句になりそうなことなんて、言いませんよ」
Q10 竹内まりやさんの曲で、いちばん好きなのは?
「難しいけど、1曲選ぶとすれば『純愛ラプソディ』かな。編曲も上手くいったしね」
Q11 おすすめの本は?
「僕は樋口一葉のファンで、日記も含めて、全作品を読破してるんです。そのなかで1冊選ぶとすると「にごりえ」かな。何百回も読んでます。
ただ、僕は人に言えるほど本を読んでるわけじゃなくて、むしろ読書コンプレックスが大きいんですよね。若いときから、本買うお金があればレコードを買ってたから」
Q12 英語の歌詞の発音が素晴らしいと思うのですが、どうやって勉強したんですか?
「何もしてないです。レコードを聴いて覚えただけ。歌えるけど、しゃべれません」
Q13 座右の銘は?
「これも年齢によって変わるんだけど、今好きなのは「心だに誠の道にかなひなば 祈らずとても神や守らん」という菅原道真の歌ですね。昔は「運命をあざ笑うものが幸運を手に入れるだろう」というイギリスの政治家(ベンジャミン・ディストレイ)のセリフが好きでした。格言の類が大好きなので」
Q14 いま乗っている車の車種は?
「BMW320i。20年乗ってますが、ヒューズひとつ飛んだことがない。世界中にファンがいるから、いまもパーツを売ってるし、一生乗ることになるんじゃないかな。ETCも付けたしね。“パワーのあるエンジンの小さい車”が好きで、その最高峰はポルシェだと思うんだけど、とにかく運転が難しくて。 2シーターだと家族を乗せられないし(笑)」
Q15 達郎さんのCDの音の良さを、素人にもわかるように教えてもらえますか?
「そんなに音は良くないですよ、僕のCDは。まだまだ修行が足りません。今回のアルバムはわりに良いと思うけど。でも、いい音っていうのは十人十色だし、どういう装置で聴いてるかにもよるしね。はっきり言って、“素人にもわかるように”説明することはできません」
Q16 好きな歌舞伎の演目があれば、教えてください。
「歌舞伎はほとんど見ないんだけど、ひとつ挙げるとしたら、『仮名手本忠臣蔵』。特に五段目以降かな。歌舞伎よりも人形浄瑠璃、文楽が好きなんでね」
Q17 ギターのカッティングのコツを教えてください。
「練習あるのみ」
Q18 35年前、デビュー当時の自分に何かひと言。
「いまでもなんとかなってるから、安心しろ」
Q19 現在、ギターは何本お持ちですか?
「だいぶ処分したんだけど、アコースティック、エレキ、各10本くらいかな。本当の意味のプロのギタリストではないから、そんなにたくさん持っていてもしょうがないんですよ。いまメインで使ってるテレキャスターは、30年前に友達から5万で買ったヤツだからね。ずっとサブで使ってたんだけど、だんだん良く鳴るようになって。ニューヨークで2000ドル、3000ドルで買ったギターより、ぜんぜん良い音がしてます」
Q20 好きなお酒は?
「ワイン。カリフォルニア・ワインが好きなんだけど、直接、生産者から取り寄せてるから、とても安く手に入るんです。レストランの高いワインなんて、まっぴらごめんだから。あとは日本酒、家ではスコッチを飲むこともあるかな。まぁ、酔っ払えば何でもいいんだけど」
Q21 日本以外で暮らすとしたら、どの国がいいですか?
「日本以外で暮らしたいと思ったことは一度もないんだけど、ニュージーランドとか、平穏な国がいいかな。世界情勢とは無縁の国というか。まぁ、そんなところはないんだけど」
Q22 歌唱力を維持するためにやってることは?
「特にないです。横隔膜の鍛錬のために、呼吸器を改善するための器械は使ってますけどね。“パワーブリーズ”っていう器械で、僕以外にもけっこう使ってる人がいるみたいですよ」
Q23 旅にでるとしたら?
「うーん、しばらくニューヨークに行ってないから、ニューヨークかな。あんまり旅が好きじゃないんですよ。“ウチっ子”なので」
Q24 好きな靴の種類は?
「60年代が青春だったから、サイドゴアのスエードのブーツですね。当時、ロックミュージシャンが履いてたのはほとんどコレだったので。いまもステージでも履いてますよ。そんなに高くはないんだけど、オーダーで作ってます」
Q25 朝食はごはん? パン?
「パン。ヨーグルトとパンとサラダくらいしか食べないけど。でも、そんなこと聞いてどうするんだ?!」
Q26 厄年のとき、お祓いはされましたか?
「もちろんしました。女房が出雲大社のある町の出身なんですけど、東京に分祀があって、厄払いも子どもの行事も結婚式も、全部そこでやらせてもらってます。何かあるとそこに行けばいいから、すごく助かってますね」
Q27 自分のレコード、CDをショップで買ったことは?
「ないですよ。そんな人、いるんですか?」
Q28 いちばん印象に残ってる学校の先生は?
「中学のときの音楽の先生。ブラスバンドの担任だったんだけど、ヘンな先生でね。僕らがバンドを組むと、“練習していい”って音楽室を開放してくれたんですよ。ちょっとキレてるところもあったけど、印象に残ってるのはその方くらいですね。その先生は高知の出身で、“南国土佐を後にして”という歌は、先生が芸大に入るとき、お師匠さんにあたる武政英策が彼を送り出すために作ったんですよ」
Q29 最後の晩餐には何を食べますか?
「鰻。昔は幼少に貧しかった人は、鰻かエビフライって相場が決まってたんです」
Q30 ライブで演奏していて楽しい曲は?
「自分の曲を楽しんで演奏したことなんて、一度もないですね。人に聴かせるものだから、自分が楽しんでちゃいけないので。しかも僕はバンマスだから、ずっと後ろのことを気にしてるんですよ。あいつ、ちゃんと段取り通りやってるかな? って」
Q31 新しくなった大阪フェスティバルホールでもライブをやってくれますか?
「もちろん! 根性入ってるらしいから、楽しみにしてますよ。キャパも同じだし、模型を使った風洞実験も続けてるらしくて。さんざんっぱら文句を言った甲斐がありました(笑)」
Q32 ゴルゴ13に何か頼むとしたら?
「人殺しはやめて、早く引退しなさい」
Q33 これからやってみたい楽器は?
「50を過ぎたら三味線をやろうと思って、早8年経ってしまいました。老後はのんびりライブをやって、あとは三味線でもやろうと思ってたんだけど、何だか忙しくなってしまって。でも、ホントにやりたいんだよね。三味線を弾きながら、都々逸とか小唄とか」
Q34 『新・東京ラプソディ』に出てくる自転車は、なぜ黄色ではなく、緑色なのでしょう?
「単なる語呂合わせですよ。“○○○色”にしようと思って、最初はドドメ色しか思いつかなかったんだけど(笑)、イントネーションがきれいだったのが緑色だっただけ。この質問、お客さん(ファン)でしょ? そんなね、深い意味なんてないんですよ。ボブ・ディランの歌詞を深読みしたがる人たちをディラニストって言うんだけど、ボブ・ディランも嫌がってるみたいだし。緑色の自転車はきれいだけどね」
Q35 アルバム『RIDE ON TIME』発売時、秋のキャンペーン広告を十勝岳で撮影したときのエピソードを教えてください。
「なにしろ噴煙のなかでの撮影ですから、肌がボロボロになるんです。岩に座ってると、ジーンズが硫黄で溶けてくるし。しかも、僕の大嫌いなトレンチコートを着させられて。大喧嘩しました」
Q36 コンビニに行くことはありますか?
「毎日のように行ってますよ。この質問は要するに、執事か何かがいて、“あれ買ってこい”とか言ってるのでは? ってことでしょ。バカバカしい」
Q37 誰とでもデュエットできるとしたら?
「原節子。ロニー・スペクターもいいかな。でも、やっぱり原節子。そっちのほうがシャレになる(笑)」
Q38 ミュージシャンになってなかったら、何をしていましたか?
「天文学者になりたかったんですよね。星を見て暮らしたかったので。でも、高校をドロップアウトしちゃったから、そっちには行けなくなって。あとは音楽出版社かレコード・プロデューサー。そうじゃなきゃ、ホームレスですね。でも、いまさら“ミュージシャンになってなかったら”なんて聞かれてもわかんないよ」
Q39 これからバンドを組むとしたら、バンド名はどうする?
「バンドに興味がないんです。シュガー・ベイブ解散のとき“二度とバンドは作るまい”と思って、それ以来、35年間ソロでやってきたので。ライブのときのバンドにも名前をつけたことがないんだけど、それは僕の考え方の表れなんですよね。アカペラのコーラス・グループをやってみたい、という気持ちはいまでもありますけどね」
Q40 音楽を志す若者へのひと言。
「プロになりたいんだったら、契約概念を把握しておくこと。金の話を避けて通ると、あとで必ず、大変なことになりますから。音楽的なことで言えば、自分がやりたいことをどれだけ貫徹できるか、ですね」
Q41 何十年も聴き継がれる名曲と、数ヵ月で消費される曲の違いは?
「運、不運でしょう。いい曲であっても、歴史のなかに埋もれているものはいくらでもあるし。恣意的なものなんですよ、スタンダードと言っても。『クリスマス・イブ』だって、JR東海のCMがなければ、“『MELODIES』のなかの1曲”だったんだから。そんなもんですよ」
Q42 制作に行き詰ったとき、どうしますか?
「酒飲んで寝ますね」
Q43 ツアーで訪れた街で、印象に残ってるのは?
「ホテルと会場だけで、街を見るほど動かないですからね。物見遊山ではないので」
Q44 プロになろうと思ったきっかけは?
「ありません。事故です。高校をドロップアウトして、大学も3ヵ月で辞めて。音楽しかやることがなかったんですね」
Q45 好きなドーナツ
「ハニーディップかな」
Q46 アルバムを作っていて「これでOK!」と判断するポイントは?
「こっちが聞きたいよ(笑)。僕はとにかく、最後の1分、1秒まであがく人間なので。OKなんか出したことないですよ。“ここで時間です”と言われて、諦めるだけで」
Q47 曲作りのヒントを得るために、意識的にやってることはありますか?
「なるべくたくさんの異業種の人と接する。映画とか本とかは当たり前のことなんだけど、自分が知らない世界で働いている人たちの話がいちばん新鮮なんですよね。“OLが男と別れた”という話のほうが、有名人の恋愛沙汰なんかよりもよっぽど歌になるので」
Q48 いまの夢は何ですか?
「夢って言ってもねえ…。三味線やクレー射撃をやってみたいけど、それは夢じゃないからね。まぁ、“あと何枚アルバムを作れるか、あと何曲作れるか?”ということでしょうね」
Q49 音楽家として、やり残していることはありますか?
「数限りなくありますよ。僕は因果な性格でね、アルバムを作り終わったときは強烈な自己嫌悪に陥るんです。20代、30代のときなんて、“何てモノを作っちゃったんだ。これで俺の音楽人生は終わりだ”と思ってましたから。でも、次に作るときは、前のほうが良く聴こえるっていう。この年齢になると前向きな諦観がありますから、そこまで落ち込むことはないですけどね。でも、1年くらいは聴かないかな」
Q50 タイムマシンに乗れるとしたら、どの時代に行きたい?
「歴史上、もっとも平穏な時代を生きてこられたと思っているので、ほかのどの時代にも行きたくないです。“無人島の1枚”と同じで、価値のある質問ではないですね。すいませんね、理屈っぽくて」
”- 山下達郎 インタビュー/@ぴあ (via zeebraltar)