UKのレコード店(量販店を除く)でレコードを何度も買った経験のある人ならわかる話だが、向こうは何かその店のスタッフが推している音楽を買うとレジで金を払うときに「グッド・チョイス」などと声をかけてくる。そして奥から、それと同系列の新譜を持ってきて「これ聴いた?」とか言ってくる。「聴いた」と言えば、その音楽がいかに素晴らしいか手短に説明する。「聴いてない」と答えれば、その場でそのレコードをかける。そして良い思えば買うし、金がなければ「欲しいけど金がない」と言うし、まあまあだった場合は「ありがとう、また来るよ」と言う。こうした細かい店員と客とのコミュニケーションが頻繁にある。たわいもないことかもしれないが、そうしたコミュニケーションが面白くて、僕はレコード店のファンになった。ときにそれは多様な情報交換の場としても機能するし、批評の場にもなるのだ。
それで最近、僕がこの話を某レコード店勤務の女性に話したところ、「そうしたコミュニケーションがいまの若者はうざったいんです」と言われたが、本当にそうだろうか。だいたい、UKスタイルのレコード店が日本にどれほどあるというのだろう(もちろんないことはないが、圧倒的に少ないだろう)。消費活動において余計な情報交換などせず、機械のように提示された金額分の貨幣を支払うだけでいいのなら、ネット通販でこと足りる。店など閉めればいいし、行く必要もない。
UKではフツーにおこなわれている、客と店員とのあいだで繰り返されるある種マニアックなコミュニケーションには、POSシステムのような(もちろんセトラル・バイイングのような)、売れるものだけをどんどん売りさばく経済効率優先のシステムが入り込む余地がない。店員も客もマニュアル化されない。僕が何度か行ったことのあるUKのとある小さな町のレコード店には、その常連に、ジャングルが好きで毎週のように12インチを買いに来る老紳士がいた。彼が来ると店員は自分が推薦するすべての新譜を部分的に再生して、「これはちょっとジャズっぽい」とか「これはベースが良い」とか言葉でも説明した。そして紳士はそのお礼にと、いつも帰り際に匂いのきつい自家栽培の野菜をおいていった。音楽文化の成熟度の高さを示すような、いい話じゃないか。
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