しずかくんのことが動機だと思っているのなら、最初に違うと言っておくよ。
たしかに未来の結婚相手を奪われるのはつらいよ。正直、あまりいい気持ちはしない。でもみんな、考えてみてくれないか。ぼくがそんな理由でこんなことをするほど嫉妬に狂う人間に見えるかい? のび太くん、君はぼくのことをよくわかっていたはずだ。頭がよくて顔もよくてスポーツ万能でしかも人格者だなんて、どれだけいやなやつなんだって、そう思っていただろう? ぼくも自分のことを優等生すぎるほど優等生だと思ってるよ。ねたみや恨みで行動したりはしない。
第一、地球が宇宙人たちに支配されたら未来の結婚相手も何もない。しずかくんだって死んでしまうかもしれない。しずかくんを得るために今ここでドラえもんを消すのは明らかにおかしい。そうだろう?
じゃあどうしてこんなことをしたかって? それは、ぼくらが自分の力で生きるためだよ。
いままできみたちはドラえもんといっしょにいろいろな冒険をしてきた。地球を守ったことも一度や二度じゃない。けれど、ぼくはきみたちと一緒に冒険の旅に出ることはなかった。なぜなら、それはひきょうなことだと思っていたからさ。
この時代におそいかかる外敵や災厄は、本来ならぼくたちが向き合うはずのものだ。国でも、個人でもいい。この時代に生きるぼくたちが戦わなくちゃいけない相手だ。だけどきみたちは、一度ならずドラえもんの道具を使って敵を撃退した。これは時間の流れから言ってルール違反だ。ひみつ道具というオーパーツに頼った行動だ。その結果、この時代がどういう影響を受けるか、考えたことがあるかい?
戦いはもちろん避けるべきことだ。でも、人類は災厄と戦うことで発展してきたんだ。その過程でどんな悲惨なことがあっても、自分の意志で生きようとするから人間はすばらしいんだ。それをドラえもんの道具に頼って解決して、それで本当に自分たちの力で、自分たちの考えで生きているって言えるのかい?
なぜタイムパトロールが不幸な過去の改変を許さないか、考えたことがある? ぼくたちは、自分の力で生きなきゃならないんだ。「困ったらドラえもんが助けてくれる」なんて考えからは、もういいかげんに卒業するべきなんだよ。逃げ場なんてどこにもないんだ。
だからぼくはもしもボックスに言ったんだ。もしも、ドラえもんがいなかったら、ってね。
この先どうなるのかはわからない。ドラえもんがいた未来、 22 世紀があったってことは、ぼくらはこの危機を乗り越えられるのかもしれない。どんなルートを通っても最後には同じ未来にたどりつくのかもしれない。でも、もしもボックスを使ったことで、ぼくらの世界は滅びる運命のパラレルワールドに分岐したのかもしれない。未来がどうなるのかはわからないよ。
でも、未来って、もともとそういうものだろう?
ぼくらはようやく自分の足で立ったんだよ。さあ、一緒に戦おうじゃないか。ぼくたちの現実と。
”- おとなの終末 - ファッキンガム殺人事件 - ファック文芸部 (via kanose)